終戦
こんな時、いつもなら「やけ酒でも呑みに行きますか?」と誰からともなくメールが来るのだけれど、サッカー仲間の友人からは一通もメールが来なかった。皆、体中の力が抜けて、それどころではなかったのかもしれない。私も、誰かと呑みに行くという気分ではなかった。
なぜか、夕食だけはガツガツと食べることが出来た。これほどの悲劇に見舞われても、食欲だけは失せないようだ。痩せないはずである。ビール(正確には発泡酒)を一缶だけ飲んだが、勝利した時のために用意しておいたワインを開けることができなかった。家族は、状況を察してか、誰も俺に話しかけてこなかった。“俺に話しかけるなオーラ”が、俺の体中から発散されていたのかもしれない。明らかに父親失格である。これ以上、家族に気を遣わせてもいけないし、かといって明るく振る舞うことも出来ず、夕食後に一人で自分の部屋にこもった。一人になると、何とも言えない寂しさ、辛さ、空しさを感じ、徐々に呑みたい気分になったが、俺から「やけ酒でも呑みに行きますか?」メールを出すことは出来なかった。夜遅くなってサッカー仲間からいくつかメールが来ただけで、誰からも「やけ酒でも呑みに行きますか?」メールは来なかった。結局、音楽を聴きながらふてくされて横になっていたら、そのまま眠ってしまった。一人涙に暮れるわけでもなく、酒を煽って酔いつぶれるわけでもなく・・・俺の東京愛はそんなものか・・・。
西京極の悲劇から2日が過ぎて、徐々にではあるが、物事を前向きに考えられるようになってきた。“忘却”という人間に備わっている自己防衛能力のお陰である。どんなに大きな悲劇も、忘却という能力が、時の流れとともに解決してくれる。あれだけの悲劇を忘れるのに2日という期間はあまりにも短すぎるだろと言われるかもしれないが、歳をとって忘れっぽくなったと言うことで勘弁して欲しい。
「今、J2のレベルが結構下がっているから、それほど選手が抜けなければ、1年でJ1に戻れるでしょ。」
「セレッソの例もあるし、フロントに目覚めてもらうためにも、一度、降格の屈辱を味わった方が良い。」
「平山に自信を付けさせるためには、一度、J2でゴール量産の経験を積ませた方が良い。」
「J1ではなかなか出場機会に恵まれない大竹、草民、高橋ら若手に経験を積ませるためにも、一度、J2で戦った方が良い。」
「久々にあの刺激的な東京ダービーが観られるからいいや。」
「J2に落ちればスタジアムが空くから、席取りの心配が要らなくなるでしょ・・・・」
これらは、降格したときのショックを少しでも和らげるために考えた言い訳である。我ながら、ポジティブになれる。一昨年にJ2に降格して不死鳥のように蘇り、今期、ACL進出を決めたセレッソには本当に勇気づけられる。セレッソにやれて、東京にできないわけはない。報道では、「FC東京のレギュラークラスの選手達がごっそり抜ける」とか「J2定着の危機」とまで書かれているが、我々はFC東京と選手達を信じるしかない。難しいかもしれないが、大好きな今野には、是非とも残ってほしい。
再来年、FC東京がJ1に復帰して、「あそこで降格しなければ、今回の優勝は無かったと思う」と話す青赤ユニをまとった今野の姿が見たい。俺は信じている。

